個人事業主から法人成りした方や、新しく会社を設立した方が最初に悩みやすいことの一つが、「役員報酬をいくらにするか」という問題です。
※本記事は、株式会社や合同会社などの法人を設立した方向けの内容です。
個人事業主の場合、事業で得た利益は基本的に事業主本人の所得になります。一方、法人では、会社の利益と社長個人の収入は別のものとして考えます。社長が会社から受け取る給与に当たるものが、役員報酬です。
税務上、役員報酬を会社の経費として扱うためには、原則として設立後3か月以内に月額を定め、毎月同じ金額を支給する必要があります。また、事業年度の途中で自由に金額を変更すると、変更した金額の全部または一部が会社の経費として認められない場合があります。
役員報酬は、社長自身の生活費だけでなく、会社の利益や資金繰り、税金、社会保険料にも影響します。
一度決めた後に簡単に調整できるものではないからこそ、目先の手取り額だけで判断せず、会社と個人の両方の状況を確認しながら決めることが大切です。
今回は、創業者が役員報酬を決める際に押さえておきたい5つのポイントを解説します。
目次
1.役員報酬は「生活費」だけで決めない
自分の給与を決めるとき、まずは「毎月いくらあれば生活できるか」から考える方も多いでしょう。
もちろん、家賃や住宅ローン、食費、教育費など、個人の生活を成り立たせるために必要な金額を確認することは欠かせません。
しかし、生活費だけを基準に役員報酬を決めてしまうと、会社の資金繰りを圧迫する可能性があります。
役員報酬は、会社から見ると毎月発生する固定的な支出です。売上が多い月だけでなく、売上が少ない月にも同じ金額を支払うことになります。
そのため、
- 個人の生活に最低限いくら必要か
- その金額を会社が毎月支払い続けられるか
という、個人側と会社側の両方の視点で考える必要があります。
「生活費として欲しい金額」ではなく、会社が継続して支払える金額とのバランスを取ることが、役員報酬を決める第一歩です。
2.役員報酬を払った後、会社にいくら残るかを確認する
役員報酬を決める前に、会社の売上や経費を予測し、簡単な収支計画と資金繰りを確認してみましょう。
まずは、毎月の売上見込みから、次のような支出を差し引きます。
- 商品や材料の仕入れ
- 外注費
- 事務所や店舗の家賃
- 水道光熱費
- システム利用料
- 広告宣伝費
- 借入金の返済
- 税金や社会保険料
- その他の固定費
そのうえで役員報酬を支払い、会社の口座にいくら残るのかを確認します。
帳簿上は利益が出ていても、売上の入金が遅かったり、借入金の返済や設備代金の支払いがあったりすると、会社の現金が不足することがあります。
特に創業期は、予定していなかった出費が発生したり、売上代金の回収が遅れたりすることもあります。
役員報酬を支払うたびに会社の口座残高がギリギリになるような設定は避け、急な支出にも対応できる手元資金を会社に残しておくことが大切です。
3.税金だけでなく社会保険料も考える
役員報酬を決める際は、所得税や法人税だけでなく、社会保険料も考える必要があります。
法人では、役員報酬を受け取る社長一人だけの会社であっても、原則として健康保険・厚生年金保険への加入が必要です。
健康保険料や厚生年金保険料は、原則として会社と本人がそれぞれ負担します。
そのため、役員報酬を高く設定すると、社長本人が負担する社会保険料だけでなく、会社が負担する社会保険料も増えていきます。
たとえば、役員報酬を月額40万円に設定した場合、会社から出ていくお金は、役員報酬の40万円だけではありません。これに加えて、会社負担分の健康保険料や厚生年金保険料などを支払う必要があります。
一方、社長本人も、役員報酬の40万円をそのまま受け取れるわけではありません。本人負担分の社会保険料や所得税などが差し引かれるため、実際の手取り額は40万円より少なくなります。
つまり、役員報酬を決めるときは、額面金額だけを見るのではなく、
- 会社が実際に負担する総額
- 社長個人の実際の手取り額
の両方を確認することが大切です。
また、役員報酬を高くすると個人の所得が増えるため、所得税や住民税の負担も大きくなる場合があります。一方で、役員報酬を低くすると会社に利益が残りやすくなり、法人税などの負担が増える場合があります。
役員報酬は、法人税だけを少なくする金額や、個人の手取りだけを多くする金額を探すのではなく、会社と個人を合わせた全体の負担を見ながら考えることが重要です。
4.売上が安定しない創業初年度は慎重に考える
創業初年度は、売上の予測が難しい時期です。
開業直後から計画どおりに売上が上がることもありますが、集客に時間がかかったり、契約や入金が翌月以降にずれ込んだりすることもあります。
一方、役員報酬は、売上が多い月も少ない月も、原則として毎月同じ金額を支給します。
「今月は売上が多かったから増やす」「今月は資金が苦しいから減らす」といった調整をすると、税務上、役員報酬の全部または一部が会社の経費として認められない可能性があります。
そのため、創業初年度の役員報酬は、売上が計画どおりだった場合だけでなく、売上が想定を下回った場合にも会社が支払い続けられるかを確認して決めることが大切です。
たとえば、次のような複数のケースで収支を確認しておくと、判断しやすくなります。
- 売上が計画どおりだった場合
- 売上が計画の80%だった場合
- 売上の入金が1~2か月遅れた場合
最も順調なケースだけを前提に役員報酬を決めるのではなく、多少売上が下振れしても会社に資金が残る金額を検討しましょう。
5.高すぎる場合・低すぎる場合の両方に注意する
役員報酬は、高く設定しすぎても、低く設定しすぎても、それぞれ注意が必要です。
役員報酬が高すぎる場合
役員報酬を高くすると、会社から毎月出ていく金額が大きくなり、資金繰りを圧迫する可能性があります。
さらに、会社が負担する社会保険料も増えるため、実際の会社負担は役員報酬の額面以上になります。
売上が予定どおりに入らなかった場合でも支払いは続くため、会社の手元資金が少ない創業期には、特に慎重な判断が必要です。
役員報酬が低すぎる場合
役員報酬を低く設定すると、社長個人の生活費が不足する可能性があります。
その結果、個人の支払いを補うために会社から一時的にお金を引き出し、会社から社長への貸付金である「役員貸付金」が増えてしまうこともあります。
また、役員報酬が低い分、会社に利益が残りやすくなるため、想定以上に法人税などの負担が発生する場合もあります。
役員報酬を低くすれば必ず会社経営が安定する、というわけではありません。
会社に資金を残すことと、社長個人の生活を成り立たせることの両方を考え、極端に偏らない金額を検討しましょう。
役員報酬を決める前に確認したい数字
役員報酬を具体的に決める前に、少なくとも次の項目を整理してみましょう。
- 毎月の売上見込み
- 仕入れや家賃などの事業経費
- 借入金の毎月の返済額
- 会社が負担する社会保険料
- 社長個人の生活に最低限必要な金額
- 設立時に会社へ残っている現預金
- 税金の支払いに備えて確保しておく金額
- 売上が計画を下回った場合の収支
役員報酬の金額だけを単独で考えるのではなく、これらを反映した収支計画や資金繰りと一緒に検討することが大切です。
まとめ
役員報酬は、単に「自分が毎月いくら受け取りたいか」だけで決めるものではありません。
役員報酬を決める際は、
- 個人の生活費を確保できるか
- 会社が毎月継続して支払えるか
- 会社に必要な手元資金が残るか
- 税金や社会保険料を含めた負担はどうなるか
- 売上が計画を下回っても支払いを続けられるか
という点を総合的に確認する必要があります。
役員報酬を高くすれば会社の資金繰りを圧迫する可能性があり、低くしすぎれば個人の生活費が不足したり、会社に予想以上の利益が残ったりする場合があります。
税金を最も少なくする金額だけを探すのではなく、社長の生活と会社経営の両方を無理なく続けられる金額を考えることが重要です。
目先の手取り額だけで判断せず、半年後、1年後の会社の資金繰りまで見据えて役員報酬を設定しましょう。
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