経営の判断に迷ったとき、まず整理したい4つのこと
創業期の経営者の方から、このようなご相談を受けることがあります。
「このタイミングで広告費をかけても大丈夫でしょうか」
「そろそろ人を雇った方がいいのでしょうか」
「設備を買いたいけれど、今決めてよいのか迷っています」
経営をしていると、日々さまざまな判断が必要になります。
特に創業期は、売上を伸ばすこと、資金繰りを考えること、税金の準備をすること、今後の投資を考えることなど、決めなければならないことが多くあります。
私は税理士として、数字や税務の面から経営のご相談を受けることが多くあります。
ただ、実際にお話をうかがっていると、経営者の悩みは数字だけで完結するものではありません。
人を雇うかどうか。
従業員に仕事を任せてよいのか。
家族やスタッフにどこまで相談すべきか。
この判断で事業を続けていけるのか。
経営には、お金のことだけでなく、人や組織、不安や責任感も深く関わっています。
そのため、なかなか決められないことがあっても、それは決して珍しいことではありません。
迷うのは、経営者として真剣に考えているからです。
ただ、頭の中だけで考え続けていると、お金のこと、時間のこと、リスクのこと、人や組織のこと、不安や責任感が混ざり合ってしまい、余計に判断しづらくなることがあります。
今回は、経営の判断に迷ったときに、まず整理したい4つのことについてお話しします。
目次
1. 「使えるお金」と「残しておくべきお金」を分ける
まず整理したいのは、お金のことです。
経営判断をするとき、口座残高だけを見て「今なら使えそう」と考えてしまうことがあります。
しかし、口座に残っているお金が、すべて自由に使えるお金とは限りません。
たとえば、口座に100万円あるとします。
一見すると余裕があるように見えるかもしれません。
しかし、その中には、月末に支払う外注費、事務所の家賃、社会保険料、税金、借入金の返済、来月の仕入れ資金などが含まれている場合があります。
そう考えると、実際に自由に使えるお金は、思っているより少ないこともあります。
反対に、「なんとなく不安だからやめておこう」と思っていたことでも、入金予定や支払い予定を整理してみると、今のタイミングで進めても問題ないと分かる場合もあります。
経営者が不安になるのは、単に「お金がないから」だけではありません。
「使ってよいお金」と「残しておくべきお金」が分かれていないときにも、不安は大きくなります。
だからこそ、広告費をかける、設備を買う、人を雇うといった判断をする前に、まずは資金繰りを確認することが大切です。
売上、経費、入金予定、支払い予定、税金、借入返済。
これらを一度整理すると、「今使ってよい金額」が見えやすくなります。
数字を整理することは、単に計算をすることではありません。
経営者が安心して判断するための土台をつくることでもあります。
2. その判断は「今すぐ決めること」なのかを考える
次に整理したいのは、判断の期限です。
経営をしていると、いろいろな課題が同時に出てきます。
人を雇った方がよいのか。
広告を出した方がよいのか。
設備を新しくした方がよいのか。
新しいサービスを始めた方がよいのか。
どれも大切なことに見えるため、すべてを「今すぐ決めなければならないこと」のように感じてしまうことがあります。
しかし実際には、すぐに決めるべきこともあれば、少し様子を見てもよいこともあります。
たとえば、「人を雇うか迷っている」という相談があったとします。
この場合、単純に「採用するか、しないか」だけを考えるのではなく、もう少し分けて整理する必要があります。
今すぐ人が足りないのか。
繁忙期だけ人手が足りないのか。
外注やパートで対応できるのか。
売上が継続的に増えているのか。
毎月の人件費を払い続けられる見通しがあるのか。
教育する時間や体制はあるのか。
こうして分けて考えてみると、「今すぐ正社員を採用する」という判断ではなく、「まずは繁忙期だけ外部に依頼して様子を見る」という選択肢が見えてくることもあります。
また、採用の悩みはお金だけの問題ではありません。
人を雇えば、給与を支払う責任が生まれます。
仕事を教える時間も必要になります。
自分が抱えていた仕事を、どこまで任せるのかという問題も出てきます。
経営者の方にとって、人や組織に関する判断は、大きな不安を伴うことがあります。
だからこそ、まずは「今すぐ決めるべきことなのか」「段階的に進められることなのか」を整理することが大切です。
迷いが強くなると、すべての問題が大きく見えてしまいます。
しかし、判断の期限を分けるだけでも、経営者の負担は少し軽くなります。
「今日決めること」
「今月中に考えること」
「3か月様子を見ること」
「今はまだ決めなくてよいこと」
このように整理することで、今向き合うべきことが見えやすくなります。
3. 失敗した場合、どこまで影響があるのかを確認する
経営判断に迷う理由は、数字上の損得だけではありません。
経営者は、自分自身の生活だけでなく、家族、従業員、お客様、取引先のことも考えながら判断しています。
だからこそ、
「失敗したらどうしよう」
「この判断で周りに迷惑をかけたらどうしよう」
「今ここでお金を使って大丈夫だろうか」
という不安が出てくるのは自然なことです。
たとえば、「10万円の広告を出すか迷っている」という相談があったとします。
一見すると、10万円を使うかどうかの話に見えます。
しかし、実際に迷っている理由は、広告費そのものだけではない場合があります。
効果が出なかったらどうしよう。
もっとよい使い道があったのではないか。
今月の資金繰りが苦しくならないか。
家族に説明しづらいな。
また失敗したと思いたくないな。
このように、数字の問題と不安が重なっていることがあります。
このとき大切なのは、不安を無理になくそうとすることではありません。
「何が不安なのか」
「失敗した場合、どこまで影響があるのか」
「最悪の場合でも、事業を続けられる範囲なのか」
を確認することです。
たとえば、広告費10万円を使った場合に、仮に成果が出なかったとしても、資金繰りに大きな影響がないのであれば、試してみる価値があるかもしれません。
一方で、その10万円を使うことで月末の支払いが厳しくなるのであれば、今は見送る、または金額を下げて試すという判断もあります。
不安を漠然としたままにしておくと、必要以上に怖く感じてしまいます。
しかし、影響の範囲を数字で確認すると、「進めてもよいリスク」なのか、「今は避けた方がよいリスク」なのかが見えやすくなります。
数字を見ることは、経営者の不安を否定するためではありません。
不安を一つずつ整理し、納得して判断するためにあります。
4. 本当に迷っていることは何かを言葉にする
最後に整理したいのは、「自分が本当に何に迷っているのか」です。
経営者が相談するとき、最初に出てくる言葉はとてもシンプルです。
「採用した方がいいでしょうか」
「借入した方がいいでしょうか」
「広告を出した方がいいでしょうか」
「設備を買ってもいいでしょうか」
しかし、話を聞いていくと、実際には一つの問題ではなく、いくつかの不安が重なっていることがあります。
たとえば、「採用した方がいいでしょうか」という相談の場合。
本当に迷っているのは、人を採用するかどうかだけではないかもしれません。
人件費を払い続けられるか不安。
教育する時間が取れるか不安。
自分の仕事を人に任せるのが不安。
採用してもすぐ辞められたらどうしよう。
従業員を抱える責任が重く感じる。
このような不安が重なっていることもあります。
この状態で、数字だけを見て「払えるから採用できます」と言われても、すぐに決断できないことがあります。
なぜなら、迷いの中には、お金以外の要素も含まれているからです。
税理士として数字を見ることはもちろん大切です。
しかし、経営のご相談では、数字だけでは整理しきれない悩みが出てくることもあります。
人との関わり方。
仕事の任せ方。
組織のつくり方。
責任を背負う経営者としての不安。
こうしたことも、経営判断に大きく関わっています。
だからこそ、まずは「何に迷っているのか」を言葉にすることが大切です。
相談することは、必ずしも誰かに答えを決めてもらうことではありません。
自分の考えを言葉にして、数字や状況と照らし合わせながら、判断しやすい形に整理することでもあります。
頭の中だけで考えていると、同じ不安を何度も繰り返し考えてしまうことがあります。
しかし、誰かに話したり、紙に書き出したり、数字に落とし込んだりすることで、少しずつ整理されていきます。
迷いをなくすのではなく、判断しやすい状態をつくる
経営をしていくうえで、迷いがまったくなくなることはありません。
むしろ、真剣に事業と向き合っているからこそ、迷う場面は出てきます。
大切なのは、迷わないことではありません。
迷ったときに、判断しやすい状態をつくることです。
そのためには、
「自由に使えるお金はいくらあるのか」
「今すぐ決めるべきことなのか」
「失敗した場合の影響はどこまであるのか」
「本当に迷っていることは何なのか」
を整理することが大切です。
会計事務所というと、決算や申告をするところというイメージを持たれる方も多いかもしれません。
もちろん、正しい申告を行うことは大切な役割です。
しかし、創業期の経営者にとって、会計事務所の役割はそれだけではありません。
毎月の数字を確認しながら、資金繰りや今後の見通しを整理すること。
投資や採用のタイミングについて、一緒に考えること。
人や組織に関する悩みも含めて、経営者が判断しやすい状態をつくること。
これも、私たちが大切にしているサポートの一つです。
当事務所では、税務や会計の数字だけでなく、経営者の方が抱える不安や迷い、人や組織に関する悩みも大切にしています。
私自身は税理士として、また経営心理士・心理カウンセラーとして、数字と経営判断の両面から状況を整理することを大切にしています。
創業期は、初めての判断が続く時期です。
一人で抱え込んでいると、不安が大きくなりすぎてしまうこともあります。
「これでよいのかな」と迷ったときは、数字をもとに一緒に整理していきましょう。
経営者の方が納得して次の一歩を踏み出せるよう、かさまつ会計事務所がサポートいたします。
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