前回の記事では、税務調査の連絡を受けたときに、まず確認しておきたいことや、その後の対応についてご紹介しました。
では、まだ税務調査の連絡が来ていない段階で、できることはあるのでしょうか。
税務調査への備えというと、
「帳簿をきれいにしておいた方がいい?」
「領収書を整理しておけば大丈夫?」
と考える方もいるかもしれません。
もちろん、帳簿や資料をきちんと保存しておくことも大切です。
ただ、それ以上に意識したいのが、日々の取引の実態に合った経理・税務処理を積み重ねておくことです。
税務調査が決まってから数年前の取引を見直しても、当時の状況を思い出せなかったり、必要な資料を確認するのに時間がかかったりすることがあります。
今回は、税務調査でも確認のポイントとなりやすい取引を例に、普段から意識しておきたいことを解説します。
1.売上は「入金された日」だけで判断しない
売上について注意したいのが、「いつの売上として計上するのか」です。
銀行口座に入金された日を見れば、お金が入ってきたことは分かります。
しかし、売上を計上する時期は、単純に「入金された日」で決まるわけではありません。
商品の販売であれば引渡しの時期、サービスの提供であればそのサービスをいつ提供したのかなど、取引の内容に応じて判断する必要があります。
たとえば、3月決算の会社で、
「仕事は3月中に終わっていたけれど、請求書を出したのは4月だった」
「入金が4月だったので、4月の売上として処理していた」
という場合、その取引が本当に翌期の売上でよいのか確認が必要です。
特に決算日前後の取引では、売上をどちらの事業年度に計上するかによって、その期の利益や税額も変わります。
そのため、
- いつ商品を引き渡したのか
- いつサービスの提供が完了したのか
- いつ請求したのか
- どのような契約内容になっているのか
といった情報を確認できるようにしておくことが大切です。
「入金されたから売上にする」のではなく、自社の取引ではどのタイミングで売上を計上するのかを整理しておきましょう。
2.外注費は、勘定科目だけでなく「実際の取引内容」も大切
創業期の会社では、一部の仕事を外部へ依頼することも多いと思います。
たとえば建設業であれば協力業者へ仕事を依頼することがありますし、その他の業種でも、業務委託という形で外部の方へ仕事をお願いするケースがあります。
こうした支払いを「外注費」として処理している会社も多いでしょう。
ただ、帳簿上で外注費という勘定科目を使っていれば、それだけで外注取引になるわけではありません。
特に個人へ仕事を依頼している場合には、契約書に「業務委託」と書かれているかどうかだけでなく、実際にどのような働き方をしているのかも重要です。
たとえば、
- 仕事の進め方についてどの程度指示を受けているか
- 報酬がどのように決められているか
- 材料や道具を誰が用意しているか
- 他の人に仕事を代わってもらうことができるか
など、実際の取引内容を踏まえて判断する必要があります。
場合によっては、「外注費として処理されていたものが、本来は給与として取り扱うべきものではないか」という点が問題になることもあります。
そのため、
- 契約書
- 請求書
- 依頼した業務の内容
- 報酬や支払条件
などが分かるようにしておきましょう。
新しく個人の外注先へ仕事を依頼するときには、契約内容と実際の働き方を確認し、外注費として処理する取引なのか、あらかじめ整理しておくことが大切です。
3.会社と役員・個人とのお金のやり取りを曖昧にしない
創業して間もない会社では、会社と経営者個人との間でお金が動くことも珍しくありません。
たとえば、
- 社長が個人のお金で会社の経費を立て替えた
- 会社から社長へ一時的にお金を渡した
- 会社の口座から個人的な支払いをしてしまった
- 役員や家族との間でお金の貸し借りがある
といったケースです。
一時的な立替などがあること自体が、すぐに問題になるわけではありません。
ただ、会社と個人のお金が頻繁に行き来し、その内容が分からないままになっていると、後から
「これは会社の経費だったのか」
「役員への貸付だったのか」
「すでに精算されているのか」
といった確認が必要になります。
また、会社が役員の個人的な費用を負担した場合などは、その内容によって役員への給与として取り扱われる可能性もあります。
できるだけ会社用の銀行口座やクレジットカードを使い、会社と個人のお金を分けておくこと。
そして、立替や資金移動が発生した場合には、何のためのお金なのかが後から分かるようにしておくことが大切です。
4.高額な買い物は、購入したときに処理方法を確認する
事業を続けていると、
- パソコン
- 車両
- 機械
- 工具
- 事務所の設備
- 内装工事
など、比較的金額の大きな支出が発生することがあります。
こうした支出は、事業のために使ったからといって、必ずしも購入した年に全額を経費にできるとは限りません。
内容や金額によっては、固定資産として計上し、一定期間にわたって減価償却する必要があります。
一方で、少額の資産については一定の取扱いや、中小企業者等を対象とした特例が設けられている場合もあります。
そのため、「この金額なら経費」と金額だけで判断するのではなく、資産の内容や会社の状況も含めて確認することが必要です。
また、建物や機械などの修理・工事についても注意が必要です。
通常の維持管理や修理であれば修繕費として処理できる一方、資産の価値を高めたり、使用できる期間を延ばしたりするような支出は、資産として計上する必要がある場合があります。
請求書に「修理」「工事」と書かれているだけでは判断できないこともあります。
金額の大きな設備投資や工事を行うときは、決算になってから確認するのではなく、できれば購入や工事の段階で税理士へ共有しておくとよいでしょう。
5.一つの取引でも、法人税だけを見ればよいとは限らない
日々の取引には、法人税以外の税金が関係することも多くあります。
たとえば、
- 消費税の取扱い
- インボイスの保存
- 給与や一定の報酬に対する源泉徴収
などです。
つまり、
「会計ソフトに何の勘定科目で入力するか」
だけを決めれば終わりではありません。
同じ取引でも、消費税の区分を確認する必要があったり、支払先や支払内容によって源泉徴収が必要になったりすることがあります。
消費税については、取引の内容によって課税関係が異なり、インボイスの有無や仕入税額控除の要件なども確認する必要があります。
会計ソフトへ入力する際の消費税区分を誤ると、その積み重ねが最終的な消費税の計算にも影響します。
一見すると同じような支出でも、取引内容によって取扱いが異なることがあるため、判断に迷う場合は自己判断のまま処理せず、早めに確認しておくことが大切です。
特に、
「これまでなかった種類の取引を始めた」
「新しい相手へ報酬を支払うようになった」
「今までとは違う契約を結んだ」
というときは、これまでと同じ処理でよいとは限りません。
いつもと違う取引ほど、発生した時点で処理方法を確認しておくことが大切です。
税務調査への備えは、特別な「調査対策」をすることではありません
税務調査で慌てないために大切なのは、調査の連絡が来てから帳簿をきれいに見せることではありません。
日頃から、
- 売上を適切な時期に計上する
- 外注取引の実態と経理処理を一致させる
- 会社と個人のお金を区別する
- 高額な支出は適切な処理方法を確認する
- 法人税以外の税務処理にも目を向ける
といったことを、一つずつ積み重ねておくことが大切です。
たとえば、
- 大きな設備投資をした
- 新しい外注先との取引が始まった
- 役員との間で普段とは違うお金の動きがあった
- 新しい契約や取引を始めた
といった、いつもと違う取引があったときには、その時点で税理士へ共有しておくことをおすすめします。
創業期は、事業の成長とともに取引先や従業員が増え、お金の流れも少しずつ複雑になっていきます。
取引が複雑になってから過去の処理を見直すよりも、早い段階から経理や税務処理のルールを整えておく方が、その後の負担を減らしやすくなります。
そして、普段から適切な処理を積み重ねておくことは、税務調査への備えになるだけではありません。
会社の数字を正しく把握し、決算や今後の経営判断につなげていくための土台にもなります。
かさまつ会計事務所では、決算・申告だけでなく、日々の経理処理や取引についてのご相談にも対応しています。
「新しく外注をお願いすることになった」
「会社と個人のお金の整理ができていない」
「大きな設備を購入する予定がある」
「これまでと違う取引を始めるけれど、処理方法が分からない」
といった段階からご相談いただくことで、後になって慌てて処理を見直すことを減らすことができます。
なお、実際に税務調査の連絡を受けた場合に、最初に確認しておきたいことや準備については、前回の記事「税務調査の連絡が来たらどうする?」で詳しく解説しています。
コメント
COMMENT